事業承継における有効な選択肢となるのがM&A。
M&Aを成功させるためには、財務や税務、法務をはじめとするさまざまな専門知識が欠かせません。
M&Aの相談相手には、公認会計士や税理士、銀行や証券会社などの金融機関、商工会議所などの公的機関、M&Aの仲介会社などがあります。相談相手ごとのメリットデメリットや選び方を説明します。
目次
M&Aを行う目的とは
■М&Aとは
M&A(エムアンドエー)とは『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略です。
M&Aの意味は、企業の合併買収のことで、2つ以上の会社が一つになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)です。
つまり、企業または事業の全部または一部の移転を伴う取引を指し、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味します。
M&Aの広義の意味として、企業の合併・買収だけでなく、提携までを含める場合もあります。
■М&Aの目的とは
●譲受(買い手)
①M&Aによる相乗効果
M&Aによって自社の弱みを補い、強みを最大化するような相乗効果(シナジー効果)を目的とする場合です。自社だけでは不足している、新しいテクノロジーや人材、市場を持つ会社と一つになることで、スピーディーに弱みを補完することができます。
一方、重複する部分についても、効率化することで経費削減を行えます。
②新規事業への参入や事業の強化
M&Aで会社や事業を譲り受ける側にも、大きなメリットがあります。
新規事業への参入を考えている場合には、一から新規事業を立ち上げるよりも、M&Aで譲り受けた方がリスクやコストの軽減が見込めます。すでに軌道に乗っている事業の技術やノウハウ、販路、それに関わる人材を手に入れられるためです。
また、自社事業とシナジー効果が期待できる会社を譲り受けることで、既存事業を強化できます。自社サービスと関連した事業を得ることにより、生産性の向上や必要とする優秀な人材、新たな取引先も事業強化に役立ちます。
●譲渡(売り手)
①事業承継対策
事業承継を困難にする原因には、後継者の不在、後継者の能力不足、経営状態の悪化などがあります。
これらの問題を解決して廃業を回避する手段として、M&Aが注目されています。
後継者問題の解決は中小企業に置けるM&Aの重要なメリットの一つです。後継者がいない会社を廃業させるのではなく、M&Aによって事業を承継することで、多くの場合、創業者利益を得てリタイアできるなど、オーナーにとっても良い手段ともいえます。
②従業員やノウハウの承継
廃業して自社を清算してしまうと、従業員は職を失ってしまいます。
その点、M&Aでは譲受企業もこれまで事業を支えてきた従業員を含めて譲り受けることを検討するため、多くの場合において従業員の雇用は守られます。また、これまで会社が培ってきたノウハウや技術を残すことができることもメリットの一つです。これは譲渡企業のみでなく、数多くの中小企業が支える日本社会全体にとってのメリットともいえます。
M&A仲介はどこに相談したらいい?
経営者の人生において、事業承継や会社売却(M&A)は、何度も経験するものではありません。M&Aを成功させるためにも、正しい相談相手を選びたいものです。
ここでは、M&Aの相談窓口について紹介します。それぞれのメリット・デメリットを把握しておきましょう。
①М&A仲介会社
M&Aの仲介会社は、M&Aの仲介業務を行う会社のことを指します。
譲渡企業と譲受企業の間に立ち、双方の希望を擦り合せながらM&Aの成約までをサポートします。
それぞれ会社によって特徴が異なり、一人の担当が案件獲得から成約まで専任で担当するところ、M&Aの進捗状況により担当者が異なるところ、譲渡企業と譲受企業ごとに分業で担当するところなど、会社によって様々です。譲渡(売り手)企業と譲受(買い手)企業の間に入り、M&Aを成約に導くための仲介業務を行います。
②顧問の税理士・会計士
一番身近な顧問の税理士や会計士に相談するケースもあります。
強みとしては、会社の経理やオーナーの家族構成などプライベートの情報を熟知しており、お互いに信頼関係があります。そのため、M&Aにおける資料の収集もスムーズで、株価の算定なども、安心して相談できることが強みです。
ただし、買手とのマッチングや、M&Aアドバイザーなどの専門家ではないため、その点は認識しておく必要があります。
③取引先銀行・証券会社
М&Aを行う際の相談先のひとつに投資銀行・商業銀行・証券会社などの金融機関があります。
М&Aにおける銀行の役割として、М&Aに関する資金の借入を必要とする企業(主に買収資金を必要とする買い手)に対し融資を行う買収資金の調達先となります。専門的な知識があり資金調達に関する相談を行いやすいメリットがあります。
しかし、銀行によるM&Aアドバイザリー業務は、他の相談先と比べ比較的手数料が高く設定されていることや、数億〜数十億円規模のM&Aを主に扱っていることが多いため、必ずしも全ての企業が相談できるわけではないので注意が必要です。
M&A仲介会社のメリットデメリット
■М&A仲介のメリット
■売り手側メリット
①事業承継者問題の解決
近年、中小企業における経営者の高齢化を背景に、後継者不在に伴う事業承継問題が深刻化しています。M&Aは、後継者が見つからない、従業員や取引先やコストなどを考えると、廃業も難しいという場合、M&Aの活用により、親族や社内に後継者がいなくとも、廃業せずに事業を存続させることが可能となります。
②雇用維持・取引維持
また、廃業を避けることは、大切な従業員たちの雇用を守ることにもなります。
M&Aであれば、不動産や設備、従業員、技術、取引先といった全ての資産を引き継ぎ、従業員の雇用や取引先との取引関係を維持することが可能です。
廃業を選択すると、従業員は職を失い、取引先は最悪の場合、事業継続が不可能となってしまうことも考えられます。
③売却益が得られる
買手の評価によっては、M&Aにより売却益を得ることができます。
M&Aにより会社を売却すれば、金銭的なメリット(事業の現金化)を享受することができます。企業価値が高く評価されればされるほど、売却利益を得ることができます。
一方、廃業・清算する場合は、有形資産を処分する費用や解雇する従業員への補償など、多くのコストがかかります。
しかし最終的には売り手・買い手双方がいくらで合意するかによって譲渡対価が決まります。希望する売却益を得られない可能性もあるので、M&A支援の豊富な実績を持つ専門家に依頼する必要があります。
④事業の拡大や将来性が広がる
M&Aにより会社を売却すれば、売上アップやコストダウンなど、買い手側との間で事業上のシナジー効果が期待でき、事業の更なる成長・発展を実現することができます。
自社では取り組めなかった新規事業への参入や、その企業が持つ資本やインフラを活用し資金調達や生産体制など自社の弱点を補い、成長の機会を得ることも可能になる場合があります。
■買い手側のメリット
①事業展開の実現
M&Aは事業成長にかかる時間を買って短縮することができます。
通常、新規事業を立ち上げるためには「マーケティング」「技術開発」「従業員の教育」などで膨大な時間とコストがかかります。M&Aで、すでにその事業を行っている企業を買収すると、これら必要なものがまとめて手に入り、自社で一から事業に投資する場合と比較して、時間とコスト、さらに、途中で事業が失敗するリスクを大幅に削減することができます。
また技術やノウハウを持っている優良な売手を見つけてM&Aを実現させられれば、事業拡大の手間や時間を軽減することができるのです。
②優秀な人材とスキルの確保
M&Aによって、売手側の企業で働く優秀な人材を獲得することができます。一から教育する時間やコストも不要な上、今後自社の力となる高いスキルを持つ人材を確保できるのです。また人材だけでなく取引先、顧客基盤、保有する不動産や販売ネットワークなどを引き継げるというメリットもあります。
■M&Aによるデメリット
■売り手側のデメリット
M&Aには多くのメリットがありますが、デメリットになる部分もあります。
①最適な相手先が見つからない可能性がある
売り手側と買い手側のタイミングが合わないとМ&Aは成立しません。
つまり、自社が売却したいタイミングで理想的な買い手が現れるかどうかはわからないということです。
売り手側としては、自身の意向にマッチした相手先と出逢えるかがポイントになりますが、買い手候補となり得る先を自力で集め、その中から自社を譲り受けてくれる先を見つけ出すことはそう簡単ではありません。
したがって、ある程度の長期戦を覚悟してM&Aに臨む覚悟が必要です。
②予想より会社に価値がつかない可能性がある
M&Aにおいて、企業価値を算出する重要な要素の一つとして、将来的な収益性が挙げられます。
将来的に収益の増大が見込める場合は、現在が赤字でも高く評価され、譲渡価格が上がる可能性もありますし、逆に、現在は安定した収益があっても、将来的に下降する可能性があると判断されれば、低く評価され、譲渡価格が下がる可能性もあります。
③従業員の不満や離職
M&Aで売買が成立すると、一般的には買い手が主導権を持つことが多い傾向です。
文化や社風を含め、買い手のシステムが優先され、昇進なども買い手側の従業員が有利になるケースもあり、その結果として、売り手側の従業員の実務的な負担が大きくなるなど従業員の不満となり結果として生産性が落ちる、人材流出につながるケースもあります。
■買い手側のデメリット
①シナジー効果が得られない場合がある
せっかくM&Aが成立し、異なる企業が一緒になってもシナジー効果が感じられない場合があります。例えば新規事業に進出する目的でM&Aを行ったが既存事業との方向性に大きな差異がある場合、その違いを埋められずシナジー効果が得られないケースも少なくありません。
М&Aによってマイナスの効果が大きくなってしまった場合も同様です。
コスト削減を狙ってM&Aを実行したものの、統合によって想定外のコストがかかったケースなどが該当します。規模が拡大してしまったことにより間接部門の管理コストが増加してしまうなど、マイナスの影響の方が大きくなってしまうケースです。
②従業員の不満や離職
売り手側のデメリットと同じように買い手側でも同じことが起こりえます。
M&Aで買収された企業の従業員は、買い手企業の一員になるのが通常です。そのとき、両社間の待遇差があったり、買収先企業の従業員の仕事内容や労働環境が変わったりなどすると、買収先従業員が不満を感じることがあります。
最悪の場合には、従業員が大量に退職してしまい、シナジー効果どころか業務が回らなくなる事態に陥ってしまいます。
したがって買い手は、買収先従業員が不満を抱くことにならないかどうか、不満を抱くような体制があれば改善の方法を慎重に検討し、デメリットを検証しながら必要に応じてそれを解消していく取り組みが求められます。
M&A仲介会社を選ぶポイント
①自社の規模に合っているのか見極める
1店舗からの売却案件の対応が可能な会社もあれば、中小企業専門に手掛ける会社もあります。まずは自社の規模や地域に合う案件を取り扱っているか、確認・問い合わせをしましょう。
また、譲渡を考えている企業情報を多く抱える会社と譲受企業の情報が豊富な企業では、大きく異なるので、自社に必要な情報を持つ会社を選んでいきましょう。どのような案件を持っているのか事前にホームページなど覗いてみるのもよいです。
公認会計士が主体となって設立した会社や、コンサルティングに定評がある会社、情報量に強みを持つ会社など、各社それぞれに特徴があります。依頼先を一つに決めてしまう前に、幅広く情報取集を行い、自社にマッチする仲介会社を探していきましょう。
②税理士など資格がある人がいる仲介会社かどうか
M&Aの助言や実務を行うのには資格は必須ではありません。M&Aに関する資格を持っていなくても、M&Aを実行することはできます。
ただし、実際にМ&Aを進めていく際には法務・財務・税務・登記などの専門的な知識が不可欠です。
事業承継(M&A)においては税務にかかわる業務が多く、事業承継後も税務面での課題はおおくある為、税理士がいる仲介会社をおすすめします。
その他国家資格の専門家がいる仲介会社の力を借りることで、よりスムーズかつ正当な価値評価でM&Aを進めることができます。
また、サポートをスムーズに受けられるように、 公認会計士等の有資格者が社内にいるか、弁護士事務所や会計事務所等と提携しているかどうかの確認もしておきましょう。
③報酬形態はどうか
M&A仲介会社を利用するにあたってトラブルになりやすいのが報酬に関する契約です。
基本的にM&A仲介会社の報酬形態は完全出来高制で、譲渡代金に応じて手数料額を掛けるレーマン方式を採用している傾向にあります。
ただ、M&Aの仲介業では報酬に関する制約が存在しないため、他の報酬形態を採用しているところも少なくありません。
仲介会社によっては成功報酬だけでなく着手金や中間金などが発生したり、最低報酬金額が決められていたりするところもあります。
そのため、報酬に関するルールをよく確認したうえでM&A仲介会社を選んだ方がよいでしょう。
④実績と経験が豊富かどうか
実績や経験が豊富にある仲介人を選ぶことも大切です。
仲介人の実績や経験を生かすには、自社の規模と同じ案件を取り扱っているか確認する必要があります。十分な実績がある会社かどうか、実績や経験が豊富にある仲介人かどうか、М&Aの成否に関わる大切なポイントです。実績案件例を見ることで、各社の得意な業界も知ることができるので、併せて確認しておきましょう。
また、担当者との相性も重要なポイントになり得ます。本当に信頼できる担当者なのかどうか、実際に面談してみないと分かりません。大抵の会社が、無料相談窓口を設けているので、依頼先を決めてしまう前に一度相談してみましょう。
まとめ
事業承継における有効な選択肢となるのがM&A。
様々な相談先があることがわかりましたが、専門知識・国家資格のいるアドバイザーがいるМ&A仲介会社に相談することをおすすめします。
仲介会社も選びきれないほどあるので、選ぶポイントを押さえ、慎重に検討しましょう。