事業承継とは?
ここでは、事業承継の定義や構成要素、基本的な流れについて解説します。
事業承継の構成要素は3つ
事業承継の一般的な定義は、経営者のもつ固有の権利(経営権)を後継者に引き継ぐことです。実際には、以下の3つの構成要素に含まれる事柄を、後継者に引き継ぐことを意味します。
人
人の構成要素に含まれるのは、以下などです。
・経営権
・後継者の選定※
・後継者の教育※
※は引き継ぎではなく事業承継の過程で実施する事柄
資産
資産の構成要素に含まれるのは、以下などです。
・株式
・事業用資産(設備や不動産)
・資金(運転資金や借入金等)
知的資産
知的資産の構成要素に含まれるのは、以下などです。
・経営理念
・特許や許認可など
・顧客や取引先の人脈や情報
・顧客や取引先からの会社への信用
・経営者と従業員の信頼関係
基本的な事業承継の流れ
基本的な事業承継の流れは、以下です。
1. 事業承継の課題の把握や準備、後継者の選定方法の検討、後継者の教育や納税方法の検討(親族内や社内で承継する場合)
2. 経営状況や経営課題の把握、M&Aなど外部依頼についての検討
3. 財務状況の改善や事業の競争力強化、会社体制の点検
4. 事業承継計画の策定(親族内や社内で承継する場合)、後継者へのアプローチやM&Aの仲介業者等の利用開始(第三者承継の場合)
5. 資産や経営権の引き継ぎ、クロージングなどを行い完了
親族内や社内で承継した場合は、事業承継後も今後の円滑な会社経営のため、事業の見直しなどに取り組みます。また、M&Aによる事業承継の場合は、売却先と次の作業などに取り組む、PMIと呼ばれる手続きに入ります。
・役員構成
・人員配置
・労働条件
・就業規則
・給与規定
・業績管理方法
事業承継の種類は4つ
事業承継には以下4つの種類があるため、次で各種類の特長をご紹介します。
1.親族内承継
経営者の親族の中から後継者を選び、引き継ぎを行う方法です。多くの場合、周囲からの反対も少く、相続や贈与により株式を容易に引き継げます。また、税法や民法の特典も豊富です。しかし、後継者の資質や能力によっては、事業承継後の経営悪化や従業員からの反発の恐れがあります。
2.社内承継
会社の役員や従業員から後継者を選び、引き継ぎを行う方法です。実際の業務で後継者としての資質や能力をもつ人物を選定できます。また、経営方針や事業の方向性についても説明不要で、株主や取引先、顧客や従業員からの理解も得やすいです。しかしながら、後継者は株式の買収資金か贈与税の納税資金の準備が必要となります。
3.外部から招いた第三者へ承継
外部の会社から後継者を選定し、招いた第三者の人物に引き継ぐ方法です。多くの場合、親族内・社内承継する候補が見つからない場合に用いられます。また、引き継ぎ前の経営者及び親族が株主になることを承認した後継者が、採用されるケースが多いです。
加えて、後継者の選択肢が幅広いですが、優秀な人物かどうかの見極めが難しく、従業員からの反発の恐れもあります。
4.M&Aにて第三者へ承継
M&Aにより自社を売却して、他の会社や経営者に引き継ぐ方法です。外部の幅広い候補の中から選定でき、経営者は自社を売却した際に利益を得られます。また、M&A後も、従業員の雇用を完全に維持できるケースも多いです。
事業承継とM&Aとの違いとは?
ここでは、事業承継とM&Aとの違い、M&Aの売却先や依頼先についてご紹介します。
M&Aとは事業承継手段の1つ
M&Aとは事業承継手段の1つで、他の会社や経営者に、自社の経営権を移転したり、譲渡したりして引き継ぎを行います。また、業務提携や資本提携することもM&Aの1種です。
M&Aの用語では、事業承継にて経営権を渡す会社を売り手企業と呼び、経営を引き継ぐ会社の呼び名は買い手企業です。
M&Aでの売却先は事業会社か投資会社
M&Aでの売却先は、事業会社と投資会社の2つです。事業会社の主な目的は事業拡大ですが、投資会社の主な目的は投資利回りの達成であることを理解しておきましょう。
外部にM&Aを依頼する方法
外部にM&Aを依頼する方法は、以下などです。
・事業承継のマッチングサイトに登録する
・金融機関に仲介してもらう
マッチングサイトの利用は、外部にM&Aを丸投げ依頼した場合よりもコストの削減ができます。その理由は、M&Aの相手探しや条件交渉を自ら実施するためです。また、必要に応じて、M&Aの専門家のサポートも受けられます。
また、上記の方法で見つけた買い手企業などとの交渉では、専門家のファイナンシャルアドバイザーに依頼も可能です。
M&Aの種類は4つ
最後に、M&Aの種類や各特徴をご紹介します。
株式譲渡
買い手となる会社の引き継ぎ相手に、自社株を売り、譲渡する形で経営権を移譲する方法です。
また、株式の売買方法には以下2種類あります。
1.株式市場での売買
2.直接交渉での売買
他の方法と比べて手続きが簡単ですが、一般的な中小企業の場合、双方の合意があった場合のみ実施できる手法です。
事業譲渡
買い手となる会社の引き継ぎ相手に、資産や負債、権利や組織など、事業のすべてか一部を引き継ぐ方法です。個々に契約を締結するため、手続きが複雑で、時間がかかります。また、売り手企業は20年間の競業避止義務の把握がかかせません。
しかし、債務や不要な資産を引き継ぐ可能性がないため、買い手が大きなメリットを感じやすい方法です。
合併
自社の資産や負債のすべてを、買い手となる1つの会社や複数の会社に引き継ぐ方法で、以下の2種類あります。
1. 吸収合併:自社の法人格を消滅し、他の会社に引き継ぐ方法
2. 新設合併:自社及び買い手となる会社の法人格を消滅し、新設会社に引き継ぐ方法
株式譲渡よりも組織の一体化を図れ、コスト削減にも繋がります。ですが、手続きが多く複雑なので、事業規模によっては不向きです。
会社分割
自社の事業がもつ権利や義務のすべてか一部を分割し、買い手となる会社に引き継ぐ方法で、以下の2種に大別されます。
1. 吸収分割:自社の分割した権利や義務を、他の会社に引き継ぐ方法
2. 新設分割:自社の分割した権利や義務を、新設会社に引き継ぐ方法
総合的な引き継ぎができ、個別の契約締結が不要なため、手続きの手間や労力を軽減できます。また、1つの事業のみを分割し、後継者に任せることも可能です。しかし、特別決議が必要で、買い手は債務などの不要資産を引き継ぐリスクがあります。
M&Aも含めて事業承継の準備を早く始めよう
後継者選びや計画の策定、M&Aの仲介業者の選定や各種手続きなど、事業承継を終えるまでに、すべき事柄は数え切れません。また、経営者ごとに条件や状況が異なるため、できるだけ早い段階で、相談機関や専門家へ相談することをおすすめします。
上記でご紹介した流れなどを参考にしながら、タイミングに応じた対応を心掛け、事業承継を円滑に進めましょう。さらに、M&Aによる事業承継を予定されており、仲介業者を検討中の方は、ぜひ複数社を比較検討してください。